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つれづれに見ている芝居の劇評、時に激甘、時に激辛、往往にして大感激
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キャストの化学反応か、巨大な舞台にも関わらず充実感が隅々までみなぎっていた帝劇の『ルドルフ』。初演を見逃したのだけど、このキャストで見て良かったと心から思う。

(演出:デヴィッド・ルヴォー、出演:井上芳雄、和音美桜、吉沢梨絵、坂元健児、一路真輝ほか)

元宝塚で、トップを経験していない娘役としては異例の活躍を見せている和音美桜さんは、在団中からすばらしい美声で、トップ目前にして退団してしまうと知った時は、『歌の上手い人がトップにならないなら、歌劇団は”歌”をはずすべき!!』などと憤った昔が懐かしい。この人の声は、ソロももちろんよいのだが、デュエットで本領発揮される気がする。相手の声に自分の声を沿わせることで、歌にさらに艶を出すような、そんな不思議な芸当ができる人なのである。もう、井上芳雄さんとのハーモニーなんて、耳に気持ちよすぎてそれだけでトリップしそうだ。加えて、演技力も確か。ルドルフと男爵令嬢マリー・ヴェッツェラの許されぬ恋という題材は、宝塚では『うたかたの恋』という名作にもなっているけれど、そこでの優しく可憐なマリーとはまた違った、勇気と包容力と知性を併せ持った、がしかし情の深い若い女性を、和音さんが生き生きと演じていたのが魅力的だった。
 
 井上芳雄という人は、ミュージカル界のプリンスながら、いろんな舞台に挑戦されていて、井上ひさしの絶筆となった『組曲虐殺』なんて、ほんと素晴らしかったなあと思うのだけれど、ミュージカルでは、プリンスなのにイマイチ女性の相手役としっくりきたのを見たことがなかった。なんせ、私が一番ドキドキした相手役が、『エリザベート』のトート役だった山口祐一郎とのキスシーンで、密かに「男性が相手役の方がいいんじゃ…」と思っていたくらいだ。それが、和音美桜さんとはめまいがするような、素敵なコンビぶりを発揮。デヴィッド・ルヴォー氏による演出によるところも大きいとは思うが、2人の”恋する気持ち”がリアルに伝わってきた。この二人のコンビで、是非別の作品も見てみたい。
 
 もうひとつ、お目当てだったのが、ルドルフの妻で大公妃ステファニー役の吉沢梨絵さん。劇団四季出身の女優さんなのだが、前にストレートプレイを見ていたので、是非、ミュージカルを!と思っていた。今回の役は、夫ルドルフとの関係は冷え切り、その上若い女性に夫を取られるが、それでもハプスブルク家のためにルドルフとの関係修復を思い続ける責任感の強い女性だ。ある意味、マリーの敵役的ポジションなので、上手く演じなければただの嫌な人、冷感症的女性になってしまうのを、情熱ともろさを責任感の鎧で封じ込めた、マリーとは別の強さを持った生身の女性として演じあげていた。見せ場はそんなに多くないのだが、マリーとの浮気現場を目撃して、夫を責める歌のシーンは重い迫力に満ち、教会でマリーと対決するシーンは、思わず観客がステファニー側に立ってしまいそうになる、押さえた悲しみと絶望の演技が素晴らしかった。
 
この3人+オーストリア首相を演じた坂元健児の若手4人の切磋琢磨が、この舞台の充実感を生み出している源泉ではないかと思う。正直に言うと、ストーリーや楽曲的には東宝のロングランミュージカルほどは、普遍性、訴求性がない作品だと思う。でも大作に負けない面白さを感じたのは、役者同士がぶつかるエネルギーのやり取りにつきると思う。実際、場面上もルドルフとステファニー、ステファニーとマリー、マリーと首相など、人と人とがぶつかるシーンが多く、印象的だった。

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