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つれづれに見ている芝居の劇評、時に激甘、時に激辛、往往にして大感激
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残酷な処女を演(や)らせたら、当代一だと思ふ。
多部未華子23歳。
『農業少女』(作:野田秀樹、演出:松尾スズキ)で、読売演劇大賞・優秀女優賞を受賞した多部ちゃんのヤバすぎる演技に、演劇界もがぜん注目。最近、舞台出演がとみに増えているのである。そんな一本が『サロメ』。もちろんサロメ役での登場だ。



◆『サロメ』@新国立劇場(中劇場)  2012.5.31-6.17
(作:オスカー・ワイルド、翻訳:平野啓一郎、演出:宮本亜門、出演:多部未華子、奥田瑛二、麻美れい、成河など)
 
 多部ちゃんに見つめられたい、多部ちゃんの素足に踏みつけられたい、多部ちゃんに髪の毛わしづかみにされたい…というアホな妄想を抱く観客も多かったことだろう。かくいう私もその一人だ。上演中、ほかの出演者は一切目に入らず。たいして距離もないのに、オペラグラスをあげたまま、多部ちゃんガン見。無邪気な笑顔が、氷のように冷たく変化していく瞬間、眉をひそめた嫌悪が、まつ毛の先からこぼれる媚態にとって代わる瞬間。だめだ…素敵すぎる…目が離せねー!
 
 妖婦という従来の解釈を大胆に切り捨て、無邪気で純粋で残酷な少女、サロメ像を打ち出したのは、演出家・宮本亜門の解釈の成功だろう。ただ、ひょっとすると、『農業少女』での多部ちゃん演技ありきでこの解釈なんではなかろーか、と勘繰ってしまうほど、多部ちゃんの存在感は大きい。っていうか、彼女だけで成立している舞台かもしれない。
 正直ヨカナーンの成河のキャスティングは微妙。絶世の美男子だとサロメに言い募られるんだけど、そんなに美男子か?って思っちゃう。痩せ方とか、預言者的な雰囲気は努力のあとが見られるけれど、首が欲しくなるほどサロメに惚れられるってところに全然説得力がない。
 奥田瑛二はねー、まったく悪くはないんだけど、この描き方では安易なキャスティングとみられても仕方ない。だって、妻の連れ子にみだらな欲望を抱く継父役っていうのが、ものすごく簡単にハマるじゃない。その上、いかんせんこの方は映画人なので、声が出ない。鈴のように軽やかに響く多部ちゃんの声、低く通る麻美れいの声、広がりのある成河の声に囲まれて、一人だけ、声を張り上げるシーンでさえ声量が足りんのよ。
 麻美れいは、いつもの麻美れいでした。ほかの芝居でもこんな役やってたなーって感じ。本人も自分に要求されているところが分かって、こなしているって感じじゃないかな。ただ、娘のサロメに寄り添うところなんて、母子近親相姦的においがしてツボ。
 
 全体として、私はどうも宮本亜門の作品の演出、、なのか舞台美術なのか、が苦手、と再確認。古代エルサレムをそれっぽく作れとはいわないけど、なんで動物園のシロクマの展示施設の上に、大塚家具のショールームがあるの? 照明暗過ぎで顔見えない。
 それから、残念だったのは、ヘロデ王の願いを聞き入れて、踊りを踊るサロメのシーン。宮本亜門さんって振付家でもあったよね。だったら、もうちょっと(いくら相手がダンスの素養がなかったとしても)踊らせてみてほしい。あれじゃ走ってるだけだ。もちろん、誘うように床に寝そべる姿、衣でヘロデの首を絞める動作、ブドウの汁を全身に浴びるラスト、どれも素敵なんだけど、せめて少しはダンス的要素を入れてほしかった。それこそ宮本亜門だからできる演出じゃないかなー。
 中でも特にこれはいただけない…と思ったのは、踊りながらサロメが高揚していくところ、おそらくヨカナーンの首が欲しいと、はっきり強く欲望するように気持ちが切り替わるところを、スクリーンの後ろでやらせたこと。あれ、観客の前でサロメの表情見せなくてどうするんだろう…。つまりそこが、無垢な処女の中から妖婦の顔が出てくる大事な一瞬でしょー、って思うわけ。
 個人的には、宮本亜門にオスカー・ワイルドの戯曲ってぴったりだと思う。だから、もっともっと多部ちゃん以外の部分は、できることがあるんじゃないかと考えるのです。
 今回翻訳は、小説家の平野啓一郎で(ナイスな起用)、この人のオスカー・ワイルド評で「実はかなり倫理的な問題を考えていた人だと思う」っていうのが、パンフレットに載っていたんだけど、すごく同意。的を得ていると思った。そこのところでも、宮本亜門と相性がいいと思うんだなー。再演視野でがんばってほしいなあ。
 
 でも、ラストはよかった。もう今日が千秋楽だからネタばれだけど、いつの間にか部屋が血の海になっていて、上につるされた鏡にそれが二重写しになり、血の孤島になったソファーの一つにヨカナーンの首を抱いて浮かぶサロメ。その誰も近づけない屹立した存在感が血と闇に閉ざされた演出で浮き彫りになってた。
 
 ってなわけで、今後も舞台の多部ちゃんから目が離せませんわ!!!

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